■ワールドコインの概要
今話題を集めている仮想通貨ワールドコイン(Worldcoin:WLD)が2023年7月に取引を開始した。
2020年にOpenAIのサム・アルトマン(Sam Altman)とTools for Humanityのアレックス・ブラニア(Alex Blania)によって共同設立された仮想通貨である。
仮想通貨とAIを融合させて富を創出し、その富はUBI(ユニバーサル・ベーシック・インカム)として、登録者全ての人々に公平に分配されるという壮大な計画だ。
ワールドコインは、世界中の何十億という人々に公平に分配される仮想通貨となる可能性を秘めている。
それは、世界中のすべての人に金融サービスへのアクセスを可能とする取り組みでもある。
現在、世界には17億人以上の人々が、金融サービスを受けることができていないと言われる。
これらの人々に金融サービスを提供することで、貧困や格差の解消に貢献することを目標としている。
ワールドコインは、現在ベータ版のテスト段階にあり、ベータ版期間中に200万人以上のユーザーを集めており、仮想通貨トークンも発行され、既に取引可能な状態であるという。
2022年には、アフリカ、アジア、南米など、世界中の100か国でテストが行われ、2023年以降に本格的な発行を開始する予定である。
ワールドコインの将来性はまだ未知数ではあるが、格差を受けている世界中の人々に金融包摂をもたらす可能性に期待される。
■虹彩認証
ワールドコインは、虹彩認証で本人確認を行うという特徴がある。
虹彩認証は、指紋や顔認証よりも精度が高く偽造が困難であることから、不正利用のリスクを低減することができる。
虹彩とは瞳孔の大きさを調節して網膜にはいる光の量を調整する役割があり、虹彩の模様は唯一個人特有のものである。
顔や指紋と違って満2歳以降は一生経年変化しないため、虹彩認証はなりすましや不正を防ぐのに効果的だと考えられている。
ワールドコインでは、orb(オーブ)と呼ばれるデバイスで虹彩をスキャンし、World IDというデジタル身分証明を作成する。
World IDを用いれば、名前やその他の個人データを開示することなく、さまざまなオンライン上のサービスで身元を確認できるようになる。
つまり、ワールドコインとは、虹彩というデータを提供した対価として発行される仮想通貨であるとも言える。
AIの普及が進むにつれて、オンライン上で人間とAIを識別ことが困難となり、自分が人間であることを証明する重要性が高まっていく。
WebサイトにIDとパスワードを入力するとき、「私はロボットではありません」にチェックを求められる経験をした人は少なくないだろう。
従来のログインシステムでは、ログイン時にメールアドレスや電話番号とパスワードを入力し本人確認を行う方法が一般的である。
しかし、ハッキングによるなりすましのログインや、AIの進歩によりログイン情報が悪用されるケースが懸念されている。
虹彩認識を利用することで、人間だけにIDを発行できる仕組みを持つWorld IDでは、本人以外がログインできなくなり安全性が確保され、IDやパスワードを入力する手間がかからないというメリットがある。
虹彩認証を活用すれば、全世界80億人にアカウントを付与して、パスワードを管理する手間とコストを省くことができる。
World IDが広く普及することで、従来のログイン方法に取って代わる可能性も指摘されている。
その反面orbという特定のデバイスに依存することで、中央集権化を招きかねないことが危惧されており、将来への課題が残される。
すぐに解消できる問題ではなく今後の経過を見守るしかなさそうだ。
■ベーシックインカムシステムの普及
チャットGPTなどのAIを活用した技術が急速に進化するにつれ、人間が行う仕事が激減する未来が待っているかもしれない。
そこで注目されるのが、年齢、性別、所得水準などに関係なく、すべての人に一律の金額を恒久的に支給するベーシックインカムシステムである。
サム・アルトマンは、仕事を失った人や格差を受ける人に対する救済措置として、ベーシックインカムシステムの普及に有効な仕組み作りの必要から、ワールドコインをスタートさせたとも言われている。
国が国民に支給するベーシックインカムへの取り組みは、日本を含めて世界中の国で議論されている。
■ワールドコインの課題
普及すれば人間の生活をより豊かにすることが期待されるワールドコインだが、プライバシーに関する危険性は忘れてはならない。
虹彩認証によって得られる個人情報の構築を、民間企業に委ねることに対して、プライバシー保護の観点から懸念の声もあがっている。
英国個人情報保護監督機関は、個人データを処理する明確な合法的根拠を持つ必要があるとして、サム・アルトマンに対して調査を行う予定であると発表している。
ワールドコインだけでなく仮想通貨やAIが人々の生活にどのような影響を及ぼすことになるのか、今後は益々注視していく必要がある。